遺品整理で出てきた品物のなかには、買取に出せるものが思っている以上にあります。買取をうまく使うと、処分するはずだった品がお金に換わり、遺品整理の費用そのものを抑えられます。
ただし、遺品の買取には、通常の不用品売却とは違う注意点があります。相続の状況によっては売ってはいけないタイミングがあり、訪問買取には法律の規制があり、業者には許可の確認が必要です。
先に要点をまとめると、売る前に確認することは4つ。相続の状況、古物商許可、複数査定、そして書面です。この記事では、売れるもの・売り先の選び方から、この4つの確認、買取をめぐるトラブルの防ぎ方まで、遺品整理の現場の視点で整理します。
遺品の買取で費用はどう変わるか
遺品整理の費用は、大きく人件費・車両費・処分費で構成されます。買取が効くのは主に処分費の部分です。買取対象になった品は処分する量から外れます。買取額が作業費から差し引かれる場合は、そのぶんも下がります。
見積もりの場面では、買取額の扱いを必ず確認してください。総額から差し引く形なのか、作業費とは別に現金で精算するのか、業者によって表示が異なります。
見積書に「買取値引き」の欄があるか、対象品と金額の内訳が書かれているかが、あとで揉めないための分かれ目です。
遺品整理の費用全体の考え方は遺品整理の費用相場で、間取りごとの概算は料金シミュレーターで確認できます。
なお、「買取で安くなるはずだったのに、当日になって値がつかないと言われた」という食い違いを防ぐには、見積もり時点で買取対象品を特定してもらい、書面に残すことです。あいまいな「買取できるものがあれば引きます」という口約束は、金額の根拠が残りません。
ここで一つ、期待の置きどころを申し上げます。総務省行政評価局が2020年3月に公表した調査は、協力の得られた69事業者への聴取にもとづくものです。
そのうち古物商許可を取得している59事業者について、買取りの状況を聴取できた58事業者を見ると、7事業者が買取りを行っていませんでした。査定や鑑定が難しいことなどが理由に挙げられています。
数としては少数で、公表から年数もたっています。それでも、許可があることと買取をしていることは別だと分かります。
買取で大きく相殺されることを前提に予算を組むのは避けてください。詳しくは遺品整理の追加料金で扱っています。
売り先は4つ:遺品整理業者・買取専門・リサイクルショップ・フリマ
遺品の売り先は、大きく4つに分かれます。それぞれ向き不向きがあり、どれか1つが正解というものではありません。
| 売り先 | 向いているケース | 留意点 |
|---|---|---|
| 遺品整理業者の買取併用 | 整理と売却を一度に済ませたい。点数が多い | 買取は付帯サービスで、査定の専門性は業者により差がある。古物商許可の確認は必須 |
| 買取専門業者(出張・店頭・宅配) | 貴金属・骨董・着物など専門性の高い品がある | 分野特化の査定が受けられる。出張買取には訪問購入の法規制が適用されるが、物品と取引のしかたによっては外れる |
| リサイクルショップ | 家電・家具など生活用品を手早く手放したい | 持ち込みの手間がかかる。専門品の評価は限定的 |
| フリマアプリ・ネットオークション | 時間をかけられる。自分で値付けしたい | 出品・梱包・発送の手間と、売れるまでの時間。高値になることもあるが現金化は遅い |
実務的な使い分けは、こうなります。家一軒をまとめて整理する場面では、遺品整理業者の買取併用を軸にしつつ、貴金属・骨董・着物のような専門品だけは買取専門業者の査定を別に取る。急がない品や思い入れのある品は、落ち着いてからフリマアプリで手放す。
この組み合わせが、手間と金額のバランスを取りやすい形です。
多くの解説記事は「買取専門業者がおすすめ」と結論づけますが、それは品物によります。専門品が少なく生活用品が中心の家では、査定に時間をかけるより、整理と一体で進めたほうが総合的な負担は小さくなります。ご自身の状況で判断してください。
買取と回収を同じ業者にまとめて任せるときは、一つ注意があります。その業者の専門外の品が、安く見積もられることがあります。
貴金属、着物、骨董、家電では、査定に必要な知識がそれぞれ違います。まとめて片付けたいなら同時で構いませんし、高く売りたい品が一つでもあるなら、その品だけ分野に強い業者へ別に出す。この使い分けが現実的です。
売り先とは別に、渡し方を3つから選ぶ
誰に売るかと、どうやって渡すかは別の話です。渡し方は店頭・出張・宅配の3つに分かれます。
店頭は、小さくて点数の少ない品に向きます。査定の様子をその場で見られるのが利点です。
出張は、点数が多い場合や大型品がある場合に向きます。遺品整理では使う場面が多い形で、押し買いの法規制が正面から関わるのもここです。
宅配は、送れる大きさの品を、落ち着いて査定に出したいときに向きます。
ただし後で書くとおり、クーリング・オフが使えるのは出張だけです。店頭と宅配は対象になりません。落ち着いて選べることと、あとから撤回できることは別の話です。
渡し方ごとに費用が発生することがあります。出張料、査定料、キャンセル料、宅配なら返送料。査定額に納得できず断ったときに費用を請求されるかどうかは、依頼する前に聞いてください。
無料と明記していない業者もあります。電話やメールで問い合わせた時点で確認しておけば、当日の判断が楽になります。
売れやすいもの・値がつきにくいもの
買取の対象になりやすい品目を、査定で見られるポイントとあわせて整理します。金額は品物の状態とその時々の相場で大きく変わるため、この表では「何が評価されるか」を示します。
| 分野 | 例 | 査定で見られるポイント |
|---|---|---|
| 貴金属・ジュエリー | 指輪・ネックレス・金製品 | 素材(金・プラチナ)自体に相場があり、壊れていても対象になることが多い |
| 時計・ブランド品 | 腕時計・バッグ・財布 | ブランド・型番・状態。箱や保証書などの付属品 |
| 骨董・美術品 | 掛け軸・茶道具・陶磁器・絵画 | 作家・時代・箱書き。素人判断が最も難しい分野 |
| 着物 | 訪問着・帯・反物 | 正絹かどうか・状態・サイズ。証紙が残っていると評価されやすい |
| カメラ・オーディオ | フィルムカメラ・レンズ・アンプ | 動作するか・人気機種か。古くても需要のある型がある |
| お酒 | ウイスキー・ブランデーの古酒 | 未開栓であること。銘柄 |
| 家電 | 冷蔵庫・洗濯機・テレビ | 製造からの年数。古いものは値がつきにくい |
| 楽器・趣味の品 | ギター・切手・古銭・レコード・鉄道模型 | 保存状態。コレクションはまとめての査定で評価されることがある |
| パソコン・スマホ | ノートパソコン・タブレット・スマートフォン | 年式と動作。付属のアダプターや箱。売る前にデータを消す必要がある |
逆に、ノーブランドの家具、使用感の強い衣類や日用品、製造から年数のたった家電は、値がつきにくい代表です。ただし「値がつかない」と「引き取れない」は別で、まとめ売りなら引き受ける業者もあります。
見落としやすいのは、一見して価値が分かりにくい品です。古い工具やミシン、万年筆、レコード、昭和の玩具などが査定で評価されることは珍しくありません。遺品整理の現場では、ご家族が「がらくた」と思っていた品に値がついた例が実際にあります。
判断に迷うものは、捨てる前に査定に出して確かめてください。仕分けの進め方そのものは遺品整理の進め方で解説しています。
パソコンとスマートフォンは、売る前にデータを消す
この2つだけは、ほかの品と扱いが違います。中に故人の情報がそのまま残っているからです。
写真、連絡先、送受信したメール、ネット銀行やクレジットカードのログイン情報。消さずに渡せば、それごと人手に移ります。買取業者が消去に対応することもありますが、任せきりにせず、できる範囲で自分で消してから出してください。
やっかいなのは、故人の端末はパスコードが分からず操作できないことがある点です。その場合は買取に出す前に、どう消去するのかと、消去したことを証明する書面をもらえるかを業者に確認してください。
確認が取れないなら、売らずに物理的に壊して処分する選択もあります。数千円の査定額と、情報が流出したときの後始末を比べて決めてください。
高く売るためのコツ
同じ品物でも、出し方で査定は変わります。押さえるべきことは4つです。
1つめは、付属品をそろえることです。時計やブランド品の箱・保証書、カメラのレンズキャップ、着物の証紙。本体と別の場所にしまわれていることが多いので、整理の途中で見つけたら捨てずにまとめておきます。
2つめは、手を加えすぎないことです。ほこりを払う程度の手入れは良いのですが、骨董や美術品を磨いたり洗ったりすると、かえって価値を落とすことがあります。汚れの処理も含めて査定に任せるのが安全です。
3つめは、まとめて査定に出すことです。1点ずつ持ち込むより、分野ごとにまとめたほうが、業者側も専門の査定士を用意しやすくなります。
ただし、点数が多いときに全体でいくらとだけ提示される「一山査定」には注意してください。価値のある品が埋もれます。目立つ品は個別の金額を出してもらいましょう。
4つめは、複数の業者で比べることです。買取価格には公的な標準がなく、業者の得意分野や在庫状況で査定額が変わります。2〜3社の相見積もりが、適正価格を知る最も確実な方法です。急かされてその場で決める必要はありません。
比べるときは、金額そのものより、その金額になった理由を説明できるかを見てください。相場と品物の状態から説明できる業者と、総額だけを告げる業者では、あとの納得感が違います。
売る前に確認する4つのこと
遺品ならではの確認事項を、4枚のカードに整理します。ここが通常の不用品売却との最大の違いです。
相続の状況
相続放棄を検討中なら売却は待つ。遺品は相続人全員の共有財産なので、売る前に他の相続人の了解を取ります。
古物商許可
買取を行う業者には古物営業法の許可が必要。公安委員会の許可番号を見積書やサイトで確認します。
複数査定
買取価格に公的な標準はありません。2〜3社の査定を比べ、一山査定で価値ある品が埋もれていないか確認します。
書面・内訳
買取対象品と金額の内訳を書面に残します。口約束の「あれば引きます」は金額の根拠が残りません。
相続の状況:売ってよいタイミングかを最初に確かめる
遺品は、亡くなった方の相続財産です。相続人が複数いる場合、遺産分割が済むまで相続財産は相続人全員の共有とされています(民法898条)。
一部の相続人が独断で売却すると、あとから相続人どうしのトラブルになりかねません。売る前に、他の相続人と「何を売るか」を共有しておくのが原則です。
さらに重要なのが、相続放棄との関係です。借金の可能性があり相続放棄を検討している場合、遺品の売却は相続財産の処分として単純承認とみなされ、放棄が認められなくなるおそれがあります(民法921条)。
査定で価値を確かめること自体は、処分にはあたらないと一般に説明されます。ただしそのまま売却すれば処分です。放棄の判断が出るまでは、査定を受けるかどうかも含めて弁護士や司法書士に確認してください。
どこまでが安全かの線引きは、相続放棄と遺品整理で詳しく解説しています。
形見分けとの順序も意識しておきたいところです。査定より先に、家族や親族で残したい品を確定させてください。売ってしまってから「あれは残したかった」となると取り返しがつきません。
「売るのは不謹慎ではないか」と迷う方もいます。無理に売る必要はありません。
残すと決めた品を先に確保したうえで、使い手のない品だけを次の持ち主へ引き継ぐ。そう考えれば、捨てるより穏やかな手放し方でもあります。
形見分けの時期や考え方は葬儀後の手続き一覧で触れています。
あわせて、バッグや机の引き出し、着物のたとう紙の間に、現金・通帳・印鑑・書類が挟まっていないかの確認も忘れずに。買取に出す品への混入は、現場でよくある事故です。
古物商許可:買取する業者の資格を確認する
中古品を業として買い取るには、古物営業法にもとづく都道府県公安委員会の許可(古物商許可)が必要です(同法3条)。これは遺品整理業者が買取を併用する場合も同じで、許可なく買い取ること自体が法律違反になります。
確認の方法は難しくありません。許可を受けた業者には、営業所や仮設店舗ごとに標識を掲示する義務があります(同法12条1項)。仮設店舗とは、催事会場のように営業所以外の場所へ一時的に設ける、容易に移動できる店舗のことです。
番号は「〇〇県公安委員会許可 第〇〇号」の形で、サイトや見積書、名刺に載せている業者も多くあります。
ただし、ホームページでの公表(同法12条2項)は、常時使用する従業者が5人以下の場合と、自社が管理するウェブサイトを持たない場合が対象外とされています(古物営業法施行規則13条の2)。サイトに番号が見当たらないことが、そのまま無許可を意味するわけではありません。
もっとも、この免除には例外があります。取り扱う古物をネット上に掲載し、対面によらない方法で取引の申込みを受ける古物商は特定古物商にあたり(古物営業法8条の2・5条1項6号)、従業者の人数にかかわらず公表の対象です(12条2項の括弧書き)。
条文が言う取引は買取と販売の両方を含むため、オンラインで買取の申込みを受けている業者はここに入ります。
宅配買取やネットからの買取申込を受け付けている業者で番号の記載が見当たらない場合は、確認する意味があります。
確実なのは尋ねることです。「古物商の許可番号を教えてください」と聞き、公安委員会名と番号が返ってくるかを確認してください。
答えられない、はぐらかす、という反応であれば、そこが判断の材料になります。
自宅へ来てもらう出張買取なら、もっと強い手があります。営業所以外の場所での取引は行商にあたります。
古物商本人は許可証を携帯し、従業者に行商をさせるときは行商従業者証を携帯させなければなりません。そして取引の相手方から提示を求められたときは、応じなければなりません(同法11条)。
「許可証を見せてください」は、お願いではなく法律が認めた請求です。
許可の確認手順は不用品回収の許可で詳しく扱っています。
とくに注意したいのは、街を巡回する「無料回収」のトラックや、突然訪ねてくる回収業者です。許可の確認ができないまま品物を渡すと、買取どころか料金を請求されたり、貴重品ごと持ち去られたりするトラブルにつながります。
ここには法律の裏づけもあります。古物商が買い受けるためや交換のために、古物商でない相手から古物を受け取るとき、その場所は自分の営業所か、取引の相手方の住所・居所でなければなりません(同法14条1項)。
例外は、日時と場所をあらかじめ公安委員会に届け出た仮設店舗の場合だけです。
つまり路上や駐車場、トラックの中で買い取る行為は、届出のある催事でない限り認められていません。
遺品整理業者に必要な許可の全体像は資格・許認可のページで、業者選び全般のチェックポイントは業者選びのチェックリストで解説しています。
訪問買取を呼ぶときは「押し買い」の規制を知っておく
出張買取は、品物が多い遺品整理では便利な仕組みです。同時に、自宅での買取には「押し買い」と呼ばれるトラブルがあり、特定商取引法の訪問購入の規制で消費者が守られています。売る側が知っておくべきルールは3つです。
こちらが頼んでいないのに自宅へ来て買取を持ちかける勧誘は、法律で禁止されています。「不用品はありませんか」と電話や訪問で持ちかけられ、応じたら貴金属ばかり求められた、という手口が典型です。
見落とされやすいのが、査定を頼んだだけの場合です。消費者庁は、相手方から査定の依頼があっただけのときに、査定を超えて勧誘を行うことは法に抵触するとしています。
境界は「頼んだ品か、他の品か」ではなく、査定なのか勧誘なのかにあります。査定をお願いした品について買取を勧められた場合も、規制の対象になり得ます。
契約したあとにも保護があります。法定の書面を受け取った日から8日以内であれば、クーリング・オフによって契約の撤回・解除ができ、この期間中は品物の引渡しそのものを断ることができます。
起算日は、契約書面を受け取った日です。ただしそれより前に申込書面を受け取っていれば、そちらが起算日になります(特定商取引法58条の14第1項)。日数を数えるときは、手元にある書面のうち早いほうを見てください。
撤回に費用はかかりません。業者は違約金や損害賠償を請求できず、代金を返すのにかかる費用と利息も業者の負担です(同法58条の14第4項・第5項)。解約料を取られると思って諦める必要はありません。
「もう渡してしまったから戻らない」と諦める前に、期間内かどうかを確認してください。8日を過ぎていても、クーリング・オフについて事実と違うことを告げられたり、威迫されたりして手続きをしなかった場合は、なお撤回・解除ができます(特定商取引法58条の14第1項ただし書)。
この場合の8日は、業者が「撤回できる」と正しく書いた書面をあらためて渡した日から数え直します。渡されないかぎり、期間は進みません。
ただし、政令で対象外と定められている物品があります。自動車(二輪のものを除く)、家具、書籍、有価証券、記録媒体です。
記録媒体にはレコード・CD・DVD・ブルーレイ・カセットテープ・ビデオテープ・ゲームソフトなどが含まれます。あわせて、携行が容易でない家庭用電気機械器具も対象外です(特定商取引法施行令34条)。
これらは訪問購入の定義そのものから外れます(特定商取引法58条の4)。つまり不招請勧誘の禁止もクーリング・オフも及びません。
家具に大きさの条件はありません。 消費者庁の例示には、いす・鏡台・げた箱のような小さなものも並んでいます。大きさや携行性で線が引かれるのは家電だけですが、「携行が容易」と扱われる範囲は狭く、同じ例示には扇風機やミシンまで対象外の家電として挙がっています。
前に「捨てる前に査定へ」とお伝えしたミシンやレコードは、この対象外の側に入ります。
買取についてクーリング・オフを定めているのは訪問購入の規定だけで、これらの品はその訪問購入から外れます。
店舗に持ち込む買取は、そもそも訪問購入ではありません。条文でいう営業所等に店舗が含まれ、訪問購入は営業所等以外の場所での買取を指すからです(特定商取引法58条の4、同法施行規則1条)。宅配で送る場合も、この規定が守ってくれる場面ではありません。
どの渡し方でもその場で決めないことが自衛になります。
一方、貴金属や着物、骨董品といった押し買いで狙われやすい品は規制の対象です。判断に迷うときは「188」で相談してみてください。
外れるのは物品だけではありません。取引のしかたによっても外れます。
売る側がその住まいから退去することとしていて、かつ売る側のほうから店舗以外の場所での取引を持ちかけた場合、訪問購入の規定は適用されません(特定商取引法58条の17第2項、同法施行令37条4号、同法施行規則150条)。
外れる取引はこれだけではありません。店舗を構える業者が定期的に住まいを巡回し、勧誘をせずに申込みを受けるだけの場合と、その業者が過去1年以内に取引のある顧客の住まいを訪ねる場合も、同じ扱いです(同法施行令37条1号から3号)。
遺品整理は何回かに分けて進むことがあります。生前整理や一次整理で同じ買取店に売っていて、1年以内にまた同じ店を呼ぶなら、8日間の猶予はないものとして臨んでください。
ここまで説明した3つ、不招請勧誘の禁止もクーリング・オフも引渡し拒絶も、まとめて使えなくなります。
賃貸を解約するとき、施設への入居で自宅を引き払うとき、そこに合わせて自分から出張買取を呼ぶ。遺品整理では珍しくない状況で、消費者庁もこの除外を明記しています。
残るのは、業者が名乗り・勧誘目的・扱う品の種類を明らかにする義務と、勧誘を受ける意思を確かめずに勧誘しない義務、断った相手に重ねて勧誘しない義務です(同法58条の5、58条の6第2項・第3項)。断る権利は残りますが、渡したあとに取り戻す道は残りません。
呼んだ業者だから安心、ではありません。8日間の猶予をあてにせず、納得できるまで渡さないことが、この場合の自衛になります。
呼んでいない業者は家に入れない。呼んだ業者にも、査定を頼んだつもりが買取の勧誘に変わっていないかを意識する。この2つを持っておくだけで、押し買いの入口はかなり塞げます。困ったときは消費者ホットライン「188」で最寄りの消費生活センターに相談できます。
遺品を売ったときの税金
遺品を売ったお金に税金がかかるのかは、よくある心配ごとです。基本の考え方を整理します。
家具、じゅう器、通勤用の自動車、衣服といった生活に通常必要な動産を売った所得には、所得税は課税されません。国税庁のタックスアンサーNo.3105(令和7年4月1日現在の法令等にもとづく記載)で示されている取り扱いです。遺品整理で手放す品の多くは、この範囲に収まります。
ただし例外があります。貴金属や宝石、書画、骨董などで、1個または1組の価額が30万円を超えるものの譲渡による所得は、課税の対象になり得ます。高価な品をまとめて売却する予定があるなら、事前に税務署か税理士に確認しておくと安心です。
もう一つ押さえておきたいのは、売却しても相続の扱いは変わらないことです。遺品をお金に換えても、それが相続財産であることに変わりはなく、遺産分割の話し合いや、課税されるケースでは相続税の計算の対象になります。
売却額が大きい場合や相続税がかかりそうな場合は、自己判断せず税理士に相談してください。
そのためにも、売ったあとの記録を残してください。何をいくらで売ったかの明細は、相続人どうしで説明するときの根拠になります。
30万円を超える品があったかどうかを、あとから確かめる材料にもなります。買取業者の発行する明細書や振込の記録は、遺産分割と、確定申告や相続税の申告が済むまで保管しておいてください。
買取を組み込んだ遺品整理の進め方
ここまでの内容を、実際の進め方に落とし込むと5つのステップになります。
-
相続の状況を確認する
相続放棄を検討中なら売却は保留。売ってよい状況か、他の相続人と共有できているかを最初に確かめます。
判断に迷う場合は弁護士・司法書士へ。
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残すもの・売る候補・保留に仕分ける
形見分けと貴重品の抜き取りを先に済ませ、使い手のない品を売る候補にします。
通帳・書類・データの混入チェックを忘れずに。
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古物商許可のある業者を選ぶ
公安委員会の許可番号を確認し、専門品は分野に強い買取業者を検討します。
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複数の査定を比べる
2〜3社で相見積もり。一山査定ではなく、価値のある品は個別に金額を出してもらいます。
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書面で内訳を確認して契約する
買取対象品・金額・作業費との精算方法を書面で確認してから契約します。
出張買取はクーリング・オフの対象ですが、対象外の物品と、規定が外れる取引のしかたがあります。
一度売った品は、原則として取り戻せません。クーリング・オフが使える場面は限られ、使えたとしても8日です。
急いで全部を一度に決める必要はありません。とくに「保留」の箱を認めることが、後悔の少ない遺品整理のコツです。売る決心がつかない品は残しておき、気持ちが落ち着いてから改めて査定に出せば十分です。
高く売ることにこだわりすぎないことも、同じくらい大事です。査定を重ねるうちに気力が尽きて、結局まとめて処分してしまうことがあります。
買取をめぐるトラブルと相談先
国民生活センターが2018年7月に公表した資料によると、遺品整理サービスについては「高額な追加料金が発生した」「処分しない予定の遺品が処分された」といった相談が全国の消費生活センター等に寄せられています。
ただし、この集計は遺品の買い取りを目的とする相談を含まないと注記されています。買取そのものの相談状況を示す数字ではなく、公表からも年数がたっている点は踏まえて読んでください。
それでも、買取の場面で残すはずの品が買取品に紛れて持ち出される事故は起こり得ます。残す品のリストを書面で共有し、作業には可能な限り立ち会ってください。
強引な訪問買取や、査定額に納得できないまま品物を渡してしまった場合は、前述のクーリング・オフが使える可能性があります。
1人で抱え込まず、消費者ホットライン「188」へ。業者との契約全般の注意点は業者選びのチェックリストにまとめています。
まとめ
- 買取は遺品整理の処分量と費用を同時に減らせる手段です。買取額が見積もりからどう差し引かれるか、書面の内訳で確認してください。
- 売り先は遺品整理業者の併用・買取専門・リサイクルショップ・フリマの4つ。品物と手間で使い分けます。
- 貴金属・時計・骨董・着物・カメラ・古酒などは売れやすい代表格。価値が分かりにくい品ほど、捨てる前に査定で確かめてください。
- 売る前の確認は4つ。相続の状況(放棄検討中は売らない・相続人の了解)、古物商許可(公安委員会の許可番号)、複数査定、書面です。
- 頼んでいない訪問買取は法律で禁止されています。出張買取は法定の書面を受け取った日から8日以内ならクーリング・オフと引渡し拒絶ができます。ただし自動車・家具・書籍・記録媒体などの物品は対象外で、住まいを引き払うのに合わせて自分から呼んだ場合のように、取引のしかたで規定が外れることもあります。
- 生活用動産の売却益は非課税ですが、貴金属などで1個30万円超は課税対象になり得ます。売っても遺品が相続財産であることは変わりません。
遺品整理と買取をまとめて相談したい方は、無料見積もりからお問い合わせください。費用の全体像は遺品整理の費用相場、概算は料金シミュレーターで確認できます。
参考にした法令・資料(10件)
- e-Gov法令検索「古物営業法」(第3条=公安委員会の許可、第5条第1項第6号=取り扱う古物をネット上に掲載し取引の申込みを通信手段で受ける営業方法、第8条の2=その方法を用いる古物商を「特定古物商」と定義、第11条第1項=古物商本人の許可証の携帯義務、第11条第2項=従業者への行商従業者証の携帯義務、第11条第3項=取引の相手方から求められたときの提示義務、第14条第1項=古物を受け取れる場所は営業所または取引の相手方の住所・居所に限られる(届出のある仮設店舗を除く)、第12条第1項=営業所・仮設店舗・古物市場ごとの標識の掲示義務、第12条第2項=許可証番号等のウェブサイトでの公表。同項の括弧書きにより特定古物商は免除の対象から除かれる)
- e-Gov法令検索「古物営業法施行規則」(第13条の2=法第12条第2項の対象外となる場合は「常時使用する従業者の数が五人以下である場合」または「当該古物商又は古物市場主が管理するウェブサイトを有していない場合」)
- e-Gov法令検索「民法」(第898条・第921条)
- e-Gov法令検索「特定商取引に関する法律」(第58条の4=訪問購入の定義。政令で定める物品は定義そのものから除かれ、その定義は「以下この章…において同じ」として第5章の2の全体に及ぶ、第58条の6第1項=不招請勧誘の禁止、第58条の14第1項=クーリング・オフの起算日は契約書面の受領日、それより前に申込書面を受領した場合はその日。同項ただし書=妨害された場合は、業者が撤回できる旨を記載した書面を交付した日から起算して8日を経過するまで撤回・解除ができる、第58条の14第4項・第5項=撤回に伴う損害賠償・違約金の請求は不可、代金返還の費用と利息は業者負担、第58条の15=期間内の引渡し拒絶、第58条の17第2項=第58条の6第1項および第58条の7から第58条の16までの適用除外。残るのは第58条の5=氏名等の明示、第58条の6第2項=勧誘を受ける意思の確認、同条第3項=再勧誘の禁止)
- e-Gov法令検索「特定商取引に関する法律施行令」(第34条=訪問購入の規制対象外となる物品は「一 自動車 二 家庭用電気機械器具(携行が容易なものを除く。) 三 家具 四 書籍 五 有価証券 六 レコードプレーヤー用レコード及び磁気的方法又は光学的方法により音、影像又はプログラムを記録した物」。家具に大きさの要件はない。第1号の「自動車」は同令の定義により二輪のものを除く。第37条=適用除外される訪問購入の取引の態様。第1号=店舗購入業者が定期的に住居を巡回訪問し勧誘せず申込みを受ける購入、第2号=店舗購入業者が訪問日前1年間に取引のあった顧客の住居を訪問して行う購入、第3号=店舗購入業者以外が継続的取引関係にある顧客に対して行う購入、第4号=相手方が物品を処分する意思を有すると認められる場合に相手方が営業所等以外での取引を誘引して行われる購入)
- 消費者庁「特定商取引法ガイド(訪問購入)」(査定の依頼があっただけの場合に査定を超えて勧誘を行うことは法に抵触する旨、クーリング・オフを妨げられた場合は期間経過後も撤回・解除ができる旨、および「住居からの退去に際し、売買契約の相手方から取引を誘引した場合」は一部規定を除いて適用されない旨)
- e-Gov法令検索「特定商取引に関する法律施行規則」(第1条=法第58条の4にいう「営業所等」は営業所・代理店・露店等・購入する物品の種類を掲示する店舗に類する場所・自動販売機等の設置場所。第150条=令第37条第4号の「物品を処分する意思を有すると認められる場合」とは、売買契約の相手方がその住居から退去することとしている場合)
- 国税庁「No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法」(令和7年4月1日現在の法令等にもとづく記載)
- 総務省行政評価局「遺品整理のサービスをめぐる現状に関する調査結果報告書」(令和2年3月)(調査協力の得られた69事業者への聴取。うち古物商許可を取得しているのは59事業者。表6=古物商許可の取得状況と提供するサービスの関係で、買取りを行うのは51事業者、行わないのは7事業者。1事業者は買取りの状況が未聴取のため表に計上されず、表の合計は68)
- 国民生活センター「こんなはずじゃなかった!遺品整理サービスでの契約トラブル」(2018年7月19日公表。同資料の注記により、遺品の買い取りを目的とする相談は集計に含まれない)